KLAN2最終報告書:
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第6章 終わりに
パソコンは単独では意味を持たなくなりつつあります。ネットワークの中で、どのような使用環境を構築するか、ということが重要な課題になっています。「AI(Artifical Intelligence)からIA(Intelligence Amplifier)へ」という流れの中で、私たちは校内LAN活用の過程にある困難と問題点を議論してきました。
沼津高専の校内LAN管理運営の方針、とりもなおさず校内LANの活用は、高専の各種業務をいかにネットワーク化するのかという課題そのものであります。それは否応無しに従来業務の見直しと再構築を強いられる課題でもあります。教官、技官、事務官が一体となって取り組まなければならない課題であります。もしも、このプロジェクトが一定程度の成果を収めたのだとすれば、それはこのプロジェクトを通じて、私達が学科・課を超えて交流し、膨大な量の意見交換を行い得たところにあると思います。この章では本プロジェクトの進め方と、本報告書のまとめ方を紹介して「校内LAN活用の第一歩」の記録にしたいと思います。
章末には本プロジェクトへの参加者を紹介して、本報告の結言とします。
6.1.委員とオブザーバ:基本的に区別はありません
本プロジェクトは最初、委員長以下17名の委員によって構成されました。学校長、副校長(教務主事)、校長補佐(学生主事、寮務主事)、事務部長、庶務課長、会計課長、学生課長と各学科の「LANに関心のある」教官が委員会の構成員になりました。そして、各学科主任と本プロジェクトに「自発的に」協力していただけそうな教官のオブザーバ参加を依頼して、計26名でスタートしました。
本projectにおける委員とオブザーバの違いは、
- (1)オブザーバには予算をどう使うかと言うことについて発言権はありません。
- (2)オブザーバは「まとめ」の冊子を作るときに労力の提供を義務として求められません。
- (3)klan2での発言については、委員とオブザーバの区別はありません。委員と全く同様にklan2上で発言し、そこでの討論に参加して頂きます。
と規定しました。そして、'96年11月12日に本プロジェクトのメーリングリストを立ち上げて討論を開始しました。このメーリングリストには議論の推進役(システム・オペレータのようなもの。雑用係)をおく事にしました。
- 討論の進展の中で、
- 「LAN 利用をどう具体化できるかは、実際にどういうことが自分たちにできるか(それができるとことでどれだけ便利になる術を知って使いこなせるか)ということと、表裏一体だと思います。そのためにも、この メーリングリスト に各科のネット管理者の参加が必要だと思うのですが。」
- と言う意見が寄せられました。
- 更に、複数の学科主任から、
- 「このプロジェクトのオブザーバーとして本学科の先生を加えていただければうれしいのですが。 皆様の情報のやり取りをみておりますと、いろいろと新しい内容が盛り込まれており、若い先生に役立つ情報も多くあるように思います。コンピュータ教育にもいろいろと熱心な先生です。如何でしょうか。」
- と言った意見が寄せられるようになりました。これに対して推進役は、
- 「推薦されるのは結構ですが、御本人の意志確認をされているかどうかについての発言がありませんので、私としては、現時点では委員長に申請できません。御本人の本プロジェクトへの参加意志を確認してからご推薦願います」
と答えています。こうしたやり取りの末、教官、技官、事務官を含めて、オブザーバは44名になりました。本プロジェクトの構成員は委員長以下総勢62名の大所帯に膨れ上がりました。沼津高専全教職員の43.7%が本プロジェクトに参加した事になります。1人1台のネットワーク端末を配布してEUCを実現した効果が現れました。
オブザーバの推薦は、各学科主任、各課長、ネットの基幹管理委員長が行いました。「分散管理」方式は必然的に「校内LAN管理」の主体が各学科、各課、各委員会になる事を示しました。
本報告書第1章で「沼津高専があって校内LANがあるのではなく、校内LANがあって沼津高専が出来てくる。」と述べていますが、これは「分散管理」方式を取る限り、校内LANの管理運営と高専組織そのものの管理運営が表裏一体にならざるを得ないという認識の反映であります。
6.2.議論の進め方:あなたが議長です
「分散管理」方式は、当然、本プロジェクトの議論の進め方をも支配しています。
- ある委員から
- 「昨日、出張で1日あけたら、e-mailの山です。それにしてもメール数が多い!
もうすこし、テーマを絞って議論をしませんか、例えば、今日から3日間はこの1テーマで議論しようとか決めてね。そしてある程度まとまったら結論をだす。そして次のテーマに取り組む。あるいは、5つぐらいのテーマをかかげて、そのテーマに対し、各人が同じ「題名」で投稿する。そうしないと収集が付かなくなりませんか?とにかく、議論の仕方に再考の余地がありますよ。それに、このようなメール方式の議論では、原則:1 mail/theme がよいのではないでしょうか」
- と言う、提案がありました。普通の会議では、当然のことながら、議長が議題を絞って、上記提案通りに議論を進めます。でないと収拾が付かなくなるからです。
- 別の委員からは、
- 「メールが多すぎて、話について行けない」という苦情も寄せられました。
- これらの意見に対する推進役の返事は以下の通りです。
- 「話しについていくために、何をするのかが問題」なのであって、「話しについていけない」事は問題じゃない。つまり、問題にする価値がない。これが、Web の世界なのです。昨年度の「最終報告」にも
- "インターネットの世界は、「自主性」の世界であり、「組織に縛られない」世界なのである。"
- と明記されています。従って、このklan2の中では、校内LANの活用に関する事なら何でも、自分が必要だと思った「議題」を自分で発議して、自分が「議長」になって進めて下さい。どれだけ多くの人達の関心を呼ぶか、それによって「議題」の価値が決まります。
- マルチメディアの世界では、議論そのものが「マルチ」なのです。 Webの世界は、受信だけではなく、発信に価値のある世界だと言うことを理解して下さい。
- だから、あなたが必要だと思われる議論を、あなたが「議長」になって進めて下さい。そして、それはもう始まっています。自分の議論を投げて、それに誰かが食いつて来たら、「いただき!」です。
6.3.報告書のまとめ方:「情報処理」演習
'96年11月12日メーリングリストの運営開始から'97年5月30日までに1,263通のメールが飛び交いました。これを束ねただけで報告書が作れると思っていた最初のもくろみは、ほぼ成功しました。「分散」方式で議論した事をまとめようと言う試みは、困難ではありますが、十分可能です。
一つのメールには、当然、幾つものテーマが含まれています。「まとめ」は委員会の仕事です。最初にやった事は、報告書の章立てに合わせて、6つのエディターの窓を開きました。そして一つ一つのメールから、該当事項を取り出して、それらを6つの窓に振り分けます。
次に、それぞれの窓を見て、各章の節立てを考えます。その節の数だけエディターの窓を開いて、章分けしたときと同じ作業を繰り返します。この時、最初に考えた節立てには無かったテーマが出てきます。それらは、新しく節を起こさないで、「その他」に振り分けます。全部が振り分け終わったときに改めて、「その他」を整理します。それを繰り返すと無視してもいいメール文章が残ります。それを「ごみ箱」に捨てて、報告書原案が出来上がります。整理された文章群を適当に並び替えて、できるだけ短い適当な文章でそれらを繋いで行きます。
こうすると前後で矛盾する文章が至る所で出てきます。意見併記にするときにはそれぞれの文章に報告者名を付けて、その報告文章内では矛盾しないように心がけます。結論を出したいときには原文を適当に捻じ曲げて、矛盾の無い文章にします。例えば、「校内LAN管理運営組織では何もかもできるわけではありません」とあったら、「校内LAN管理運営組織では校内LANに関する事は、何もかも扱わなければなりません」と変えます。「できません」と言う結論を出すために本プロジェクトをやっている訳ではなく「こうすればできますよ」と言う結論を出すためにやっているのですから、このような「ちょっとした変更」は当然の事です。
5月30日を過ぎても、相変わらずメールは飛び交っています。これらを捕まえて「昆虫採集」よろしく出来上がった節(かご)に入れて行きます。こうして「報告書」原案が出来上がります。
今度は、その原案をHTML文章にして、プロジェクトのHomePageに貼り付けます。そして総勢62名のプロジェクト参加者から、原案の「間違い」や「対案」を募ります。そして、指摘の多い文章を書き換えて行きます。勿論、最初の「結論」が180度変わる事もあります。
これを何度か繰り返えして本報告書が出来上がりました。
これは一種の「情報処理」演習です。
6.4.助言者からの発言:山田竹實 仙台電波工業高等専門学校
沼津高専のklan2(高専LAN調査研究プロジェクト2年次目)が終了するに当たり、同プロジェクトから、私にも何かを言えとのご指示をいただいた。私は、klan2に関しては名ばかりの助言者で、メイリングリストによって毎日大量に飛び込んでくるメイルに付き合うだけで精一杯、助言者というより傍観感嘆者とでもいうべき存在であった。
しかし、全国の高専を見回してみるとLAN活用の進度は未だマチマチであり、この際、我々のこれまでの経験を踏まえて何かを言っておくことに、多少の意義はあると思う。
6.4.1.メイリングリストの活用
- 平成7年度の本プロジェクトでは、全国のLAN先進高専から一家言ある人材を選んでメイリングリストを構成し、インタネットによる白熱の議論が展開された。私は、この議論を傍受しながら「この方式は、高専相互の協力を強化するために将来不可欠の方式である」と感じていた。そして平成8年度、国立高等専門学校協会(国専協)の施設設備委員会で「情報化時代の高専図書館の在り方」を議論するに際し、委員校の校長先生方のメイリングリストを作って、実験的に応用してみた。結果は上々であった。
- 言うまでもないことだが、メイリングリストによる議論には次の利点がある:
- 一人の意見が容易にメンバー全員に伝わる;
- 不在時にでも届く;
- 相手の意見を容易に利用できる;
- 記録が残るからゴマカシが効かない;
- 等々。
- 全国高専の先生方、大いに専門別・業務別のメイリングリストを積極的に構成して、協力の実をあげてください。
6.4.2.まず、トップが大切
- 現在の情報化ブームが、情報先進国アメリカのトップ、クリントン大統領・ゴア副大統領による「情報スーパーハイウェイ構想」の発表(平成5年)に始まったことは、周知の通り。私も、その尻馬に乗って「僻地にあって孤立しがちな高専にこそ、まずインタネット設備を」という建議を国専協に提出したが、「大学にさえ行き渡っていないのに、高専にはまだまだ無理」と一蹴されてしまった。ところが平成7年度、高専総括のトップ文部省の決断によって、全国高専に一斉にLANの予算がつけられた。各高専のLAN設置とその活用に当たっては、各高専のトップ、校長・事務部長の理解と決断が必要であった。今や、LAN設備は一応整い、その活用に邁進すべき時期である。トップは、細かいことは分からなくても良いから、率先して利用してくださるよう、お願いしたい。
6.4.3.端末装置は、教官・事務官・技官を問わず全員に
- LAN活用の第一歩は、教職員の各人がパソコンとネットワークに慣れることである。そのためには、「各係に一台端末を置いておくから、各自、暇を見て慣れろ」と言ってもだめで、強制的にでも常に端末に触れられる環境を作る必要がある。このことは、沼津高専や旭川高専では、すでに平成7年度に行われたと聞いている。仙台電波高専では平成8年度にやっと達成できた。
6.4.4.「人」が大切、レッセフェール(やらせろ)
- 全校あげてのLAN活用体制を作るべく、校内の情報を集めてみると、意外なところで「能ある鷹」が「爪を隠している」のを発見して驚き喜ぶことがある。「コンピュータを扱うのは情報関連科目の担当教官」という認識は、一昔前の認識にすぎない。では、何故これまで「能ある鷹」が爪を隠してきたかというと、「ただでさえ日常の仕事が忙しいのに、この上コンピュータが使えるということを見せると、さらに余分な仕事が降ってくる、しかも昇進・昇給には無関係」ということらしい。
- 最近は、各官公庁でもこういう事態が問題になって改善が検討されているそうである。事務官にも年功序列でない「能力給」が導入されることを望みたい。
- 今、高専でできることといえば、ネットワーク端末を扱うことをワープロを扱うのと同程度の日常業務に位置づけることと、特別昇給を能力給として活用することぐらいであろう。その上で、上司が人材の能力を高く評価し、思う存分やらせることが必要である。
6.4.5.高専事務の電算化とLAN活用
- klan2で飛び交うメイルを見ていると、中に「この頃、事務部からの発信がちっともないのは、どうしたことだ」というのがあって、苦笑した。
- 公開キー暗号方式の実験を行って成功したという報告には感心した。
恐らくこれは、人が書類を持ち回り、認め印がずらりと並ばなければ決裁がとれない現行の事務処理を、何とか効率化しようとして行われた実験であろうと推測している。
- 私の見るところ、現行の決裁方式は、コンピュータがない時代に磨きぬかれたシステム管理法式の一大傑作である。これのおかげで、事務官の仕事が大過なく行われ、システムが円滑に動く。たしかに時間がかかるが、その時間は、多くの人間が過ちを起こさないことを第一義として案件をチェックすることに、使われているのである。
- 現行の事務処理を改善するには、まず事務処理システムのアナリシス(分析)を行い、コンピュータ化できるものとそうでないものとを、決める必要がある。それをやる人は、事務処理システムの全貌とコンピュータで何ができるかとの、両方を把握していなければならない。残念ながら、今の事務官にそういう人がいたとしても、現行のシステム下の作業で手が一杯で、システム分析まで手が回らない。私は、金をかけても民間のシステムアナリストに分析を依頼する方が、結局は経済的であると思っている。それと同時に、有能な事務官・技官を育てていくことが必要である。
6.4.6.高度情報化社会は、考え方も道具立ても、発展途上
- 世に「発展途上国」と「先進国」という区別があって、発展途上国は先進国を目標に諸事の改革進めている。高度情報化社会の在るべき姿を模索し、その副産物として諸技術がどんどん進歩している。高専LANも当然、その渦中に巻き込まれる。
- 願わくは、高専の皆様が積極的にこの渦中に飛び込んで、高度情報化時代における高専の在るべき姿を模索し、新しい技術を開発して行かれんことを。
6.4.7.今後の高専教育への課題例
- 情報洪水の中から、真に有効な情報を選択するには、どうすれば良いか?高度情報化社会で新たに生じるモラルの問題を、どう解決するか?自主教材をハイパーテキスト構造で作るとき、リンクをどう張るのが学生の学習心理にあっているか?各教育目標に適したマルチメディアの使い分けを、どうするか?等々
最後に、沼津高専のklanグループが、全国高専のLAN活用推進のために、平成7・8年度において払われた甚大なご努力に、心から賞賛と敬意を捧げます。
6.5.'97年度校内LAN調査委員会委員・オブザーバ名簿
役割分担 | 氏名 | 所属官職 ( 役職名) |
助言者 | 山田竹實 | 仙台電波工業高等専門学校 校長 |
上野文男 | 熊本電波工業高等専門学校 校長 |
プロジェクト委員長 | 山下富雄 | 沼津工業高等専門学校 校長 |
プロジェクト副委員長 | 影山 学 | 副校長 (教務主事) |
プロジェクト委員・ オブザーバ | 平林紘治 | 校長補佐(学生主事) |
|
山岸文明 | 校長補佐(寮務主事) |
|
大賀喬一 | 機械工学科主任 |
|
井上 聡 | 機械工学科講師 |
|
三谷祐一朗 | 機械工学科助手 |
|
若松勝寿 | 電気工学科主任 |
|
濱屋 進 | 電気工学科教授 |
|
青木振一 | 電気工学科助教授 |
|
保坂 淳 | 電気工学科助教授 |
|
加藤賢一 | 電気工学科助手 |
|
森井宜治 | 電子制御工学科主任 |
|
小林幸也 | 電子制御工学科教授 |
|
舟田敏雄 | 電子制御工学科教授 |
|
澤洋一郎 | 電子制御工学科教授(情報処理教育センター長) |
|
長澤正氏 | 電子制御工学科助教授 |
|
牛丸真司 | 電子制御工学科講師 |
|
遠山和之 | 電子制御工学科講師 |
|
川上 誠 | 電子制御工学科講師 |
|
鄭 萬溶 | 電子制御工学科助手 |
|
岡野和巳 | 電子制御工学科助手 |
|
柳下福藏 | 制御情報工学科主任 |
|
長谷賢治 | 制御情報工学科助教授 |
|
宮田任寿 | 制御情報工学科助教授 |
|
鈴木茂樹 | 制御情報工学科講師 |
|
宇井倬二 | 物質工学科主任 |
|
蓮實文彦 | 物質工学科助教授 |
|
芳野恭士 | 物質工学科助教授 |
|
谷 次雄 | 一般科目主任 |
|
野澤正信 | 一般科目教授 |
|
遠藤良樹 | 一般科目教授 |
|
望月孔二 | 一般科目講師 |
|
青田広史 | 情報処理教育センター技官 |
|
佐藤 宏 | 庶務課実習調整係技官 |
|
河野厚志 | 庶務課実習調整係技官 |
|
秋元正樹 | 電子制御工学科技官 |
|
洲崎貴子 | 電子制御工学科技官 |
|
大井陽一 | 電気工学科技官 |
|
増田博代 | 一般科目技官 |
|
長谷部昌弘 | 事務部長 |
|
米谷栄治 | 庶務課長 |
|
山本親男 | 庶務課庶務係長 |
|
谷澤幸悦 | 庶務課人事係長 |
|
小川和雄 | 庶務課図書係長 |
|
小澤喜英 | 庶務課庶務係 |
|
大内一徳 | 庶務課庶務係 |
|
金澤正雄 | 会計課長 |
|
岩崎久治 | 会計課総務係長 |
|
影島義三 | 会計課出納係長 |
|
杉本美智江 | 会計課用度係長 |
|
三輪史朗 | 会計課施設係長 |
|
大河由広 | 会計課総務係 |
|
山口正志 | 会計課用度係 |
|
滝田昌稔 | 会計課用度係 |
|
宮腰秀弘 | 学生課長 |
|
大畑直道 | 学生課学務専門職員 |
|
長谷川智志 | 学生課教務係長 |
|
藤本和也 | 学生課教務係 |
|
堀田昭久 | 学生課学生係長 |
|
興津邦明 | 学生課学生係 |
|
山本吉明 | 学生課寮務係長 |
以上
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