KLAN2最終報告書:
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第1章 はじめに

本プロジェクト研究は、昨年度、沼津高専を主幹校として実施された「高専LAN調査検討プロジェクト」の'96年度版として計画されたものであります。

'95年度プロジェクト研究の目的は、国立高専における校内LANの効果的な活用を実現するために、各高専の既存校内LANの現状、利用実例、今般の予算措置で構築するLANの利用に際しての課題等を調査検討し、今後の教育・研究及び事務への有効利用を図ろうとするものでありました。

このプロジェクトの成果は、'96年2月に「中間報告書」にまとめられ、同3月には「最終報告書」がまとめられました。それらは、それぞれ沼津高専のHomePageに掲示されると共に、印刷された冊子は、文部省、及び全国高専に配布されました。

1.1.プロジェクトの名称

本プロジェクトの名称を「高専LAN調査プロジェクト」略称を "Klan2" とします。

1.2.プロジェクトの目的

本研究プロジェクトは、昨年度の成果を踏まえつつ、全教職員に1人1台の端末が配備された沼津高専を中心に、その後の校内LANの活用状況を追跡調査し、校内LAN活用上の問題点と近い将来の可能性を探り、その成果を全国高専に紹介することを目的とします。

昨年度、校内LANが全国54高専に予算措置され、現在、本格的に稼動しつつあります。本プロジェクトの目的は、これらの校内LANが各高専で教育・研究及び事務利用において、どのように活用されているかを、沼津高専の場合を例にとって、以下に示す4事項について調査し、優れた活用例については、全国高専の模範とし、問題点がある場合にはそれを洗い出し、解決策を模索し校内LANの質的向上に寄与することにあります。

(1)校内LANの管理運営に関する事項
(2)校内LANの教育利用に関する事項
(3)校内LANの事務利用に関する事項
(4)校内LANとインターネットに関する事項

1.3.プロジェクトの実施

本プロジェクトは以下のように実施されました
'96年11月 メーリングリストの開設と討論の開始
'96年12月 検討事項の絞り込み
'97年 1月 検討事項、調査結果の集計
'97年 4月 検討、調査事項のまとめ
'97年 6月 結果のInternet上での公開と、印刷冊子の作成

1.4.プロジェクトの実施方法

本プロジェクトの実施方法は以下の通りです。
(1)メーリングリストを作成して、委員間の討論を開始する。
(2)委員会の他にオブザーバを置く。
(3)沼津高専の各学科、各課の校内LAN活用状況を把握する。
(4)沼津高専にIntranetを構築する。
(5)委員会とオブザーバは常時、電子会議を開催する。全国高専の状況把握は、専情協の協力を得て、適宜、Internetを通じて行う。
(6)昨年度プロジェクトに報告された事務活用例の全てを実験し、可能なものから実現していく。
(7)委員会は調査活動の成果をInternetを通じて、全国高専に報告する。

1.5.プロジェクトの概要

本プロジェクトを構成する委員は、2名の助言者を除いて、全て沼津高専の教官、事務官で占められています。こうしたプロジェクトが、特定の高専のメンバーのみによって占められるのは珍しい事であります。たいていの場合は、幾つかの高専から、それぞれ専門家を募って、調査・検討を行い、その成果を全国高専に敷延するのが「習わし」です。

本プロジェクトが、こうした「習わし」には従わず、委員が専門家でもない人達によって構成されたのには理由があります。

「'95年度 高専LAN調査検討プロジェクト」において「校内LANが十分その実効を上げていない時期での調査では十分とは言えないので、校内LAN活用の実態調査は今後とも引き続き行われるべきである。」という「'95年度委員会」の見解をそのまま「'96年度」の調査につなげて行こうとする見解には一定の意味がありました。

しかし、その後、「'95年度最終報告書」がまとまる中で、教育実践にしても、事務活用にしても、それらの見通しも問題点もかなり明らかになってきたと思います。そうした状況の下での「'96年度」調査計画は、当初考えられていたほど単純な「調査」ではすまなくなってきている、というのが私達の認識になりました。

例えば、校内LANの管理運営に関しては妙手がある訳ではありません。言えることは、この問題には学内のコンセンサスが必要だということです。誰かが片手間にできることでもなければ、安易な「外注」によって解決できる問題でもありません。学内のすべてがより質の高い管理運営体制を求めて、不断に努力することが求められています。具体的に言えば、校内LANの管理運営にはそれだけの予算を割いて、それだけの人員を「学内」で確保する姿勢が求められていると、考えました。

私たちは、学内処置の積み重ねの中でこそ校内LANの管理運営はうまく行く、と考えています。つまり、校内LANを中心に据えた高専運営と校内LANの管理運営は一体として捉えるべきであると。

この事は、とりもなおさず高専の体質「改善」と各高専のポリシーの具体化を校内LANの活用にどう反映させるのかと言うことを意味します。学校長や事務部長の指導力が重要な役割を果たす課題でもあります。

こうした見地からは、前回のように校内LANの管理運営のあり方について各高専を調査する必要は無いと考えました。それは、各高専のあり方そのものに係る問題ですので、夫々の高専に固有の問題を含むと考えられるからです。必要な事は、調査しつつ実践して行く、と言う姿勢でした。これが、プロジェクトのメンバーを沼津高専内に限った第1の理由です。

その結果、校内LANの管理運営に関して、本プロジェクトの活動が沼津高専の校内LAN管理運営組織の雛形に成って行く、という合意が得られました。こうした経過を踏まえつつ、第2章では校内LANの管理運営について報告します。

教育実践でいうと、「'95年度最終報告書」で紹介された「高知高専等での実践例」つまり、学生に各自のHomePageを開設させてそれに課題を貼り付けさせる方法が、かなりの威力を発揮すると言うことが分ってきました。本高専におきましてもこの夏休みの集中講義でこのやり方を実践してみて、一定の成果を得ています。

http://moon.denshi.numazu-ct.ac.jp/~funada/special-lecture/lecture.html 

そして、授業で学生がかなり自由に校内LANを使用できる環境(例えば、コンピュータ演習室)が学科単位でも必要である、と言う事がわかってきました。現状では、すべての学科がそのような設備を持っているわけではありません。全国的に見ても情報関係の学科のみがこうした設備が使える状況にあります。つまり、高専内でも学科によって校内LANの教育利用環境に格差が生じている、と言う現実がありました。

この「格差」はいずれ解消されるものでしょうか? 私たちにはそう見えませんでした。教育環境の格差はやがて、学生が接する情報量の格差、情報処理の能力差にまで広がる事は明らかです。コンピュータを挟んで、できる学生とできない学生が高専を分断して行くことになるのではないか、と言う危機意識がありました。「格差」が生じる原因は教官サイドの「意識」にあります。こうした問題を議論するのにコンピュータやLANの専門家だけのプロジェクトでは不十分です。更に言うなら、違った状況にある高専間での経験の交流では問題の所在を明らかにはできません。議論の参加者を沼津高専内の教官に絞った第2の理由がここにあります。こうした理由から、私たちはklan2を沼津高専の教官の「学校」として位置付けました。

その結果、学科を超えた議論の進展の中で、ネットワークコンピュータに関する各学科教官の意識が変化し出しました。積極性の程度差こそあれ、全ての学科に学生が自由に校内LANを使用できる環境が必要である、との合意が形成されたと思います。本プロジェクトの校内LANの教育利用についての議論を第3章 校内LANの教育利用 で紹介します。

校内LANの事務活用について言えることは、従来の事務活動が校内LAN活用の体制にはなっていないという事が問題点になります。設備面では、事務官の1人1台の端末整備が出来ているのは、'96年4月段階では本高専だけでした。果たして、設備面での整備がそのまま校内LANの事務活用につながるのかどうか、こうした疑問に対して実践的に答えられる条件がある高専で調査してみたいと言うのが、本プロジェクトのメンバーを沼津高専内に絞った第3の理由です。

沼津高専におきましても事務活用で、やりたいことは一杯あるけれども、どうやっていいのか分らない、と言うところでした。具体的に言いますと、E-mailは活用されるようにはなったが、それらが校内のデータベースとどう関連してゆけばよいのかが分らない、と言うことです。E-mailとHTML文書としてWWWを利用したデータベースの構築との関連がすっきりした形で認識されていない、と言うところでした。

私たちは「'95年度プロジェクト」で明らかにされた校内LANの事務利用に関する事項のすべてに取り組み、できた事項についてはどのようにして実現したか、と言う事を、できなかった事項については、なぜできなかったかと言う事を第4章 校内LANの事務利用 で紹介します。

校内LANとインターネットに関する事項についても「実際にやってみて、議論する」と言う姿勢に終始しました。沼津高専の外線は64kbpsという最も細い接続です。これでは教育利用についても、事務利用についても不十分である、と言う事は誰にでもわかります。しかし、それでもなおかつ「本当に不十分か」と言う問いかけを行いました。沼津高専にとって、外線接続経費はそれほど安い設備投資費用ではないのです。

この調査には米国留学中の教官が参加しました。米国の大学(UCLA)から、実際に沼津高専へアクセスして、どの程度「耐え難い状態にあるのか」を実験によって明らかにしました。学内では時間によってはある程度使える状態にある事もわかりました。私たちは、こうした実験を通じて、外線接続回線容量アップに関する学内合意を形成し、384kbpsへの容量アップを実現する工事を始める事ができました。外線接続関連の事項については第5章 校内LANとインターネット で報告します。

1.6.校内LANの費用対効果

高専における校内LANの効果は、どれだけの教育効果を生み出したか、という事が重要であって、インフラ設備の費用対効果で議論できる性質のものではありません。しかし、決して安くはない投資をして校内LANを設備したのですから、本プロジェクトには費用対効果についても調査する義務があると考えました。

'95年度と'96年度の比較は以下のようになりました。

消費電力では前年度比10.5%の増加です。これは147台のパソコンをLANの端末として配置したのですから当然の事です。しかし、パソコンによる消費電力の増加は、計算上8.6%の増加にしかなりません。残り、2%は「自然増」です。

電話代は昨年度比7.3%の削減になりました。内訳を見ますと、近距離電話は逆に前年度比で11.1%の増加になっています。これは近距離電話がインターネットで置き換わってはいないと言う現実から見て、沼津高専の事務量の増加の反映とみなして良いと思います。実際、専攻科の発足、専攻科建物の工事準備等、事務部の仕事量は「体感的」には20%も30%も増えています。その意味で、近距離通話量の11.1%の増加と言う数字は、純粋に沼津高専の事務量増加の反映であるとみなす事ができます。遠距離通話料の24%の削減、国際通話料の61%の削減はまさにインターネットの効果です。

各学科内、研究室内での使用を除く、コピー経費は前年度比5.2%の削減になりました。'96年度は校内LANについては「テスト期間」中と言う事で、目的意識的な削減努力は行いませんでしたが、それにもかかわらず沼津高専ではペーパーレス化が進行している事がわかります。

'96年度は専攻科教育が始まっています。学生数の増加は2%に過ぎませんが、教育量は少なく見積もっても各学科0.5クラス分は増えています。つまり10%の増加です。これと近距離通話料の増加割合がほぼ一致している事から、沼津高専における業務量は昨年度比10%の増加があったとみて良いと思います。そうすると電力消費量10.5%の増加は納得できる結果になります。

電話代とコピー経費、合わせて6.4%、金額ベースで約65万円の削減は純粋に校内LANの費用対効果が生み出した節約分であると結論づける事ができます。

目的意識的にペーパーレス化を追求した研究室がありました。教授1名、助手1名、卒研生8名のこの研究室でのコピー経費は前年度比で42%の削減になりました。卒研発表用のOHP用紙の使用が一切無かった事を考慮すると、金額ベースでは、50%を超える削減率を実現した事になります。

本プロジェクトは校内LAN活用の目的は設備の費用対効果の追求ではない、とは考えていますが、結果的に、それは高専内のペーパーレス化を促進し、経費削減の一役を担うインフラ設備でもある事にかわりはありません。



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